とある女子の、バレンタインデーについて。
待ちに待ったバレンタインデー。
去年のわたしは、あなたが大好きなキャラクターの箱入りのチョコレートを、本命か義理かわからないように、ギリギリ本命なのがうっすら伝われば良いなという期待も込めて、頑張って渡したが、伝わらなかった。
喜んでくれたけれど、伝わらなかった。
ホッとしたけど悔しくなって、気持ちが伝われば良かったと思っている自分に驚いて、やっぱりわたしはあなたとどうにかなってしまいたいみたい、気がついた。
今年こそは、そろそろ、伝えたいところだけれど、口に出して言うのを想像するだけで馬鹿みたいに顔は赤くなるし、声は震え、舌を噛んじゃうような、最悪な思い出にはしたくないから、あなたにかっこ悪いところを見せたくないから、強がっていたいから、やっぱりチョコレートが伝えてくれたらいいなって、デパートに逃げた。
たくさんの女子が、友達と、母親と、もしくは彼氏と一緒に、チョコレートを見定めに集まっていた催し物売り場の会場は、女子と彼女らの熱でいっぱいで、チョコレートも溶けてしまいそうだった。
わたしも負けじとショーケースに並べられたチョコレートに熱視線を送ってみたけれど、彼女らのものには絶対負けている。
気合いの入れ方が違うのか、みんな目をギラギラさせていて、わたしが成り得そうもないような女子の、あの感じ。
みんな、チョコレート一つに思いを託す、馬鹿。
チョコレート一つで結果が変われば苦労しないのにね。
とは言えやっぱり渡さなきゃいけないものは渡さなきゃいけないので、あなたの周りの他の女子と差をつけたくないので、ちょっと頑張ってわたしはその日女子を演じた。
あいつはどんな味のチョコが好きなんだろう。
どこのメーカーのものが好きなのかな。
いつもどんなチョコをコンビニで買うんだろう。
いちご味の可愛いものは似合わないかも。
ビターすぎると食べてくれないかも。
ナッツ入りのは好きなのか。
コーヒー味だと食べやすいかな。
どんなチョコが効果的かな。
わたしの思いを託させてくれる、ちょうどいいチョコレート。
頭がぼうっとしてきた。
ワンフロアをぐるぐるぐるぐる、目が回るほど歩き回って、結局買ったのは、わたしが日本で一番有名だろうと思うチョコレート屋さんのチョコレート。
2800円の水色のハートの箱のものか、4200円のピンクのハートの箱のものか、悩んだけれど覚悟を決めた。
仲間の熱でいっぱいの会場が後押ししてくれた。
これなら伝わるでしょ。
家に帰って後悔した。
これじゃあわたしも大馬鹿だ。
いかにも本命だと、中を見なくてもわかる。
ぶりっ子の結晶。
途端にそれを持っているのも嫌になった。
なんでこんなの渡さなきゃいけないんだ。
そもそもなんでこんなに悩まされなきゃいけないんだ。
あいつが鈍感なのが悪い。
こんなに考えているのが伝わらないなんて。
日々少しずつヒントあげてるのに、その中の一つも伝わらないなんて!
なんでこんなチョコレート買う羽目になって!
なんでこんなに恥ずかしい思いしなくちゃならないのか!
わたしがいつも、どれだけ悩んで、どれだけ困って、辛くて、もどかしくて、こんな思いしてるのは、あいつが……全部全部全部悪い!!
あなたから、言ってよ……わかってよ……。
『わたしに言うことある?』
ムカついたからラインで聞いた。
『今多分悩んでると思うけど、』
今年もチョコレート待ってる。』
だから渡すことにした。